『新薬の狩人たち』  ドナルド・R・キルシュ著


世の中にはあまり知られていない仕事や職業があります。「ドラッグハンター」(新薬研究者)もその一つでしょう。著者はこの ドラッグバンター として、スクイブ社、アイアナミッド社、アメリカン・ホーム・プロダクツ社などで、足かけ35年に渡って創薬研究に従事してきました。


著者は自分の経歴を知った人たちから決まって次の3つのことを聞かれるそうです。私の薬はなぜこんなに高いのか、なぜこんなに不快な副作用があるのか、なぜ大切な人を救う薬がないのか。著者はこうした疑問に答えるために執筆を始めます。


本書は石器時代から現代に至るまで、新薬を求めて人間が乗り出した大胆な旅の物語です。ストーリーは薬の起源である植物から始まり、合成化合物、土壌細菌性由来、バイオ医薬品へと進みます。各章では直観やイノベーション、粘り強さ、そして驚くべき運の強さにより、歴史に名を残すことになった非凡な人々の新薬探索の冒険の旅が綴られます。


そこには人間が織りなすドラマに加え、競争、確執、一か八かの賭け、駆け引き、金目当ての思惑が渦巻いています。製薬業界の内情も取り上げられ、製薬メーカーの経営姿勢や薬の安全性とコスト、メリットの三つ巴の関係も取り上げられています。



新薬の狩人たち
新薬の狩人たち
 成功率0.1%の探求



新薬の開発には気が滅入るほど困難が待ち構えています。その訳は開発は今も昔も スクリーニング という化合物の候補を系統的に探索する試行錯誤のプロセスに頼っているためです。薬の候補になる化合物は3×10の62乗という、ほとんど無限大に近い数だけあることに加え、科学法則や工学原理、数式などが存在せず、薬の成分が効く仕組みすらわかっていないのです。


この状況を著者はアルゼンチンの作家、ボルヘスが描いた 「バベルの図書館」 になぞらえます。この図書館は無数の六角形の部屋が連なり、あらゆる方向に延びています。本棚にぎっしり詰まった本の中身はほとんどが意味不明な文字の羅列ですが、ごくまれに文章として成り立つ一文が見つかります。しかし、それ以外は無意味な文字が並んでいます。


それでも、この 「バベルの図書館」 にはきっと判読できて、人生を変える叡智に満ちた 「弁明の書」 と呼ばれる本があるに違いないと思いながら、延々と図書館をさまよっている司書が 「ドラッグハンター」 に他ならないというのです。


大多数のドラッグハンターは自らのキャリアを賭け、「弁明の書」 を探し出そうとしますが、見つからないまま人生を終えることになります。著者はドラッグハンターとして成功するには才能と勇気、粘り強さ、そして運が必要と記しています。


著者は本書の執筆を続けていくうち、当初の目的とは別のものに気づき始めます。それは人間の健康、科学の限界、勇気や創造性、直観的なリスクテイクの大切さから得られる教訓です。これらの教訓は私たちの将来の幸福にも活かせるものです。


本書に登場しない無数のドラックハンターの失敗により、今を生きる私たちは薬の恩恵を受けています。薬を服用する際は、そうした過去の創薬の歴史にも思いを馳せてみると、効き目が倍増するかもしれません。



「新薬の狩人たち」  ドナルド・R・キルシュ 著
早川書房・刊 税別・2000円







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