『スタートアップ・バブル』 愚かな投資家と幼稚な起業家


1990年代の末、アメリカは好景気に沸いていた。社名に「ドットコム」とつけば、どんなIT企業の株も上昇したことから、「ドットコム・バブル」と呼ばれた。その後バブルは崩壊し、多くの投資家が痛手を被った。だが現在再びIT企業に札束が舞い込んでいる。


今回の主役はIPO(新規株式公開)で、持ち株やストックオプションによって大金持ちになる起業家や社員が続出している。彼らは儲けたカネを使って、新しい会社を立ち上げ、2度目のドジョウを狙う、あるいはIPOを目指すスタートアップ企業に資金を提供する投資家に転じ、さらに豊かになっていく。


こうした盛況を批判的に、時に羨望の眼差しで見つめていたのが、雑誌・ニューズウィークでテクノロジー・エディターとして記事を書いていた著者だ。インターネットによって雑誌や出版業界は斜陽産業になり、著者もリストラの憂き目に会う。50歳を過ぎていると再就職は困難を極める。ツテを求めて多くの知人や友人に会い、話を聞いているうちに、この熱狂に自分も一枚噛むべきだと思い始める。そしてスタートアップ企業で働くことを決意する。


本書はジャーナリストからIT企業のマーケターへ転身を試みた著者の痛々しく、時に屈辱的な自分探しの旅の物語であり、50代になって自己改革を志し、新しいキャリアを目指すとはどういうことかを綴った本でもある。著者の奮戦記と並行して現在アメリカで沸き起こっているIPOバブルの実像も明らかにされる。



タートアップ・バブル

スタートアップ・バブル

 愚かな投資家と幼稚な起業家



著者は再就職を決めたハブスポットという会社に初めて出社した日、早くも会社選びに間違ったのではないかという不安に直面する。社員のほとんどが20代・30代の若者で、やたらと自意識過剰で自己評価が高く、互いに称賛し自己高揚感を高め合い、まるでカルトのような集団思考がはびこっていた。


そして経営トップの決定が平気で無視され、責任者不在で重要な経営判断がなされるという、とてもマトモな会社とは思えなかった。知り合いに聞いてみると、スタートアップのIT企業はどれも似たようなもので、ハブスポットが特別という訳ではなさそうだった。


著者はこれまでIT企業は偉大な発明や最先端のテクノロジーが先にあり、その後、営業がついて来ると思っていた。だが実際の主役は、ほどほどの製品を猛烈に売りまくる「インバウンド・セールス」(内勤営業)という営業部隊だった。ハブスポットも、巨大なフットボール場のような建物に多くの若手社員を詰め込み、一日中、営業電話を掛けさせていた。毎月ノルマが課せられ、成績の上がらない社員は次々にクビにされていく。人材は使い捨てで、ストックオプション目当ての若者を多く集めるために、福利厚生費や派手な宣伝・演出に湯水のようにカネを使い、IPOが近いと思わせている。


赤字が続いても急ピッチで増収が続いている限り資金調達に困ることはない。中央銀行の量的緩和策によるカネ余りで、投資家たちは目ぼしい運用先が見当たらず、投資先の企業をロクに調べず、とにかく数打てば当たるという「スプレー&プレイ」(カネを撒いて祈る)を繰り返しているからだ。大事なのは短期間での成長という規模拡大で、利益は二の次、三の次だった。


著者はハブスポットでの仕事や人間関係で翻弄され続ける。閉塞感を打開するため採用面接で意気投合したはずの経営トップに直訴するものの、結果として墓穴を掘ることになる。ジャーナリストにありがちな軽い皮肉や当てこすりが大きなトラブルに発展してしまう。やがて著者は自分が採用された事情や、現在自分置かれた状況が徐々に見えてくる。


八方塞がりに陥った著者の元に、やっと常軌を逸したような世界から抜け出す機会が到来する。普通の会社に転職できたことを機に、これまでの体験を本にしようと執筆を始めた。すると思いもかけない事件が降りかかってくる。まるで闇社会の正体を知ってしまった人間は簡単に足を洗えないかのようだ。


アメリカの中央銀行・FRBは金利の引き上げという、いわばパーティーが盛り上がっている最中にカクテルとフルーツが入った大きな器・パンチボールを引っ込め始めている。宴会場に蛍の光が流れる日はそう遠くなさそうだ。



「スタートアップ・バブル」 愚かな投資家と幼稚な起業家
ダン・ライオンズ著  講談社刊  税別1800円







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