『荒くれ漁師をたばねる力』  坪内知佳・著


君たちはどう生きるか』という本がベストセラーになっています。先行きが不透明で、将来が見通せない時代を迎えているためかもしれません。社会の安定の礎であったはずの終身雇用や社会保障は制度疲労により雲行きが怪しくなり、親や先輩諸氏の生き方は手本にならず、頼りになるのは自分だけという世の中になりつつあります。



山口県萩市の北に位置する萩大島にも見通しが立たない状況で立ち尽くしている漁師たちがいました。かつては漁師の醍醐味である一攫千金の夢が叶っていました。数日の漁で会社員の年収程度の水揚げがあったのですが、今は漁獲高は激減し、獲った魚の単価も下がる一方です。このままでは漁と島の暮らしが成り立たなくなる、漁師たちはそんな不安に押しつぶされようとしていました。



一方、対岸の萩市に暮らしていた著者もまた、先行きが見えず悪戦苦闘していました。大学を中退し、若くして萩の男性と結婚、一児をもうけるものの離婚。シングルマザーとしてこの先どうやって生計を立て、生きていくべきかという悩みを抱えていました。



互いに不安や危機感を抱えていた者同士が出会う事で一つの試みが始まります。本書は日本の隅っこで必死に生きる漁師たちと、偶然彼らと巡り合って事業を手伝うことになった著者の挑戦の物語です。



画像
荒くれ漁師を束ねる力




漁師たちから萩大島の漁業の先行きについて考えてくれという漠然として依頼を受けた著者がまず取り組んだのが、農林水産省が推進する「6次産業化法」に基づく事業者の認定を受けることでした。



この法律は農林漁業者が、農畜産物・水産物の生産という1次産業だけでなく、食品加工(2次産業)や流通・販売(3次産業)にも取り組み、1次産業×2次産業×3次産業=6次産業化によって農林水産業を活性化させ、農山漁村の経済を豊かにすることを目的にしています。事業者に認定されることで、融資や補助、出資、PRなどで有利な計らいが受けられます。



なんとか計画書をまとめ、第1号の認定事業者となり、著者は漁師たちからの要望もあって「萩大島船団丸」の代表者に就くことになります。そして始めたのが、漁師たちが自分たちで獲った魚を最終消費者である飲食店に直接出荷する「直出荷」という試みです。エンドユーザーの要望に応じた魚を揃えて出荷すれば、卸売市場が求める定時・定量・定質・定価からはずれた魚も流通に乗せることができ、魚を高値で売ることができます。



しかし新しい試みは常に反対や反発、抵抗、対立を生み出します。軋轢は周囲の関係者や組織との間だけでなく、萩大島船団丸の内部でも起こります。漁以外の慣れない仕事をさせられる破目になった漁師の間では不満が高まり、著者と漁師の間の取っ組み合いの喧嘩も日常茶飯事で、離脱者も相次ぎ、新規事業は何度も挫折の危機に直面します。しかし著者はあきらめることなく、失敗を恐れず、戦うことを止めません。船団丸の漁労長は著者について、「あきらめない、ブレない、必ず解決策を見つける有言実行の人である」と語っています。



なぜ萩の生まれでもなく、漁業とは縁もゆかりもない著者がここまで深く船団丸に関わることができるのでしょう。それは若い日に著者の身に起こった衝撃的な出来事により、人生観が大きく変わったためでしょう。今も20代という若さでありながら、どこか人生を達観したような所が随所に垣間見えるのはそのためかもしれません。



「萩大島船団丸」の新しい漁業の試みは会社の事業再生にも通じるものがあります。これまでのやり方に見切りをつけ、新しい取り組みに乗り出そうとしている経営者には、著者の語るストーリーの中に数多くのヒントを見出すことができるでしょう。また起業家あるいは事業再生の試みとしてだけでなく、人が生きる目的は何なのかを示唆する一冊とも言えそうです。




「荒くれ漁師をたばねる力」 坪内知佳・著
朝日新聞出版・刊 税別1400円






ブログ・トップページ : http://justeye.at.webry.info/



ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック