『名づけの世相史』  小林 康正・著

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  名づけの世相史




明治安田生命が定期的に新生児につけられた名前を集計して公表している。最新の2013年の調査によると男の子で最も多かった名前のトップ3は悠真(ゆうま、はるま)、陽翔(はると)、蓮(れん)、女の子は結菜(ゆいな、ゆな)、葵(あおい)、結衣(ゆい)だった



こうした順位は毎年変わり、上位の名前が全体に占める割合(シェア)は低下傾向が続いている。子供たちの名前は年々様変わりし、多様になる一方ということになる。そして最近の特徴としては、漢字の読み方が多彩になり、難解になっていることが挙げられる。著者はこの小冊子において、読めない名前が増加する現象の分析を通して、家族の変化から現代の世相を読み解こうとする



読めない名前が増え始めたのは2000年頃からとされ、その理由の一つとして指摘されてきたのは名前をつける方法の変化だ。従来は最初に使う漢字・文字を決め、その後、名前を決めていたが、現在は先に呼び名を決め、その後に該当する漢字・文字を探すやり方が主流になっている。名前に個性を求めるため、平凡な漢字・文字の使用を避ける結果、読めない・読みづらい名前が多くなる。さらに命名に関するメディアやネットを中心にした知識・情報の変化がこの傾向に拍車をかけている




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著者はこうした理由以外に子供に対する親の価値観と社会的空間の変化も指摘する。現在の親、特に母親は家系や社会のために義務として子供を生むのではなく、自分のため、家族のために子供をつくるという選択を行っている。子供を持つことは私的な行為となり、そのため自分が頻繁に使う名前は心地よさや響きを重視して呼び名で決められる。名前は家族という親密空間で交わされるものであり、他人が読めなくても大きな問題には映らない



だが、最初は親密空間だけで使われていた名前は子供の成長と伴に公共空間でも使われる。名前は社会と個人を媒介する公共性の機能を有しており、私たちは他者のアイデンティティを名前という分類記号と結び付けることで責任ある相手を想像することができる。ふりがなを付けないと読めない名前は相手のアイデンティティを見えづらくする。読めない名前でも、ふりがなを付ければ問題ないという発想の背景には公共空間が変化し、名前の持つ公共性に対する認識が変化してきていることがある



この変化を加速しているのが消費社会とコマーシャリズムの台頭だ。子供とその親をお客さまとして扱い、読めない名前を読ませようとする商業主義の圧力が蔓延している。フランスの思想家、ボードリヤールによれば産業の独占集中は均一な個人と社会を生み出し、本来、個人を特徴づけていた現実的差異を失わせ、他人と違うことによってしか存在し得ない擬似的差異によって人々を支配しているという。ボードリヤールの説に従うなら、親が求める個性は一人の個人に根ざしたものではなく、他人の子とは違うという差異がもたらす個性に過ぎないことになる。読みにくい名前が増えてきたのは家庭という孤立した親密空間に立てこもる親たちが、親密空間にふさわしい差異化という個性を自分と子供に与える試みといえる



他者との差別化によって図られる個性ではなく、本当の個性とは何かという答えが見つかるようになれば、読みづらい名前は減ってくるのかもしれない





「名づけの世相史」 小林 康正・著
風響社・刊 税別700円 (注・これはブックレットという小冊子)






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