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枕草子 第57段 「職の御曹司の立蔀のもとにて」、第3話です。 お話は、藤原行成と清少納言の会話、やり取りに移ります。 2人の知的な会話運びにご注目! 第1話はこちら 第2話はこちら ◇ 物など啓せさせむとても そのはじめ言いそめし人を訪ね -------------------------------------------- 行成さまは、中宮さまに何か申し上げようとするときも、 最初に声をかけた私を訪ね 下(しも)なるをも 呼びのぼせ 局(つぼね)などにも来て言い ------------------------------------------------------------------ 局に下がっている者を、呼び寄せたり、局などにもやって来ては何かと申しつけられた 里なるには 文書きても みずからも おはして ---------------------------------------------------- 私が自宅にいるときには(※)、手紙を書いては、自らおいでになり ※この頃、清少納言は宮中での藤原一族の政治闘争のあおりで、 あらぬ噂を立てられ、中宮・定子との間が気まずくなり、自宅へ 引きこもっていました 「遅く参らば 『さなむ申したる』と 申しに参らせよ」など のたまう --------------------------------------------------- 「遅くに参上するのなら、『このように行成が申しております』と、 中宮さまに申し参られよ」などと、おっしゃる 「その人の候(さぶら)う」など 言い譲れど ------------------------------------- 「それに応じた人が控えていますよ」など言って、 その人に譲ろうとするのだが さしも 受け引かず などぞ おはする -------------------------------------- それは受け入れかねる、などというご様子である 「あるに従い 定めず 何事も もてなしたるをこそ よきにはすれ」(※)と 後ろ見きこゆれど ------------------------------------------------------------------------ 「何事もあるままに従って、特に定めることなどせず、取り計らうことを、良しとしております」と、 ご忠告申し上げるが ※贅沢を戒めた藤原師輔(もろすけ)の遺言、「衣冠より始めて馬車に及ぶまで、 有るに従いこれを用いよ、美麗を求むることなかれ」からの引用。 清少納言は行成の先祖の遺言を引き合いに出して、行成の行動を戒めようと しています 「わがもとの心の本性」とのみ のたまいつつ ---------------------------------------------------- 行成さまは、「私のもともとの心の本性なのです」とだけ、おっしゃり 「改まらざる物は心なり」(※)と のたまえば ----------------------------------- 「改まらないのは心である」と、おっしゃれば ※ここは出典が不明 「さて 『はばかりなし』(※)とは いかなる事を言うにか」と あやしがれば ------------------------------------------------------------- 「では、『改めるのに遠慮は無用』とは、いかなる事なのですか」と、不審がると ※論語の「過ちては すなわち改むるに はばかることなかれ」からの引用。 論語では誤っていることを改めるのに遠慮してはならないと書いてありますよ、 という清少納言の反撃 笑いつつ 「仲よしなど 人々にも言わるる ---------------------------------------------- 笑いながら、「あなたと仲がよいなどと、人々に言われます かう語らうとならば 何かは恥ずる。見えなどもせよかし」と のたまうを -------------------------------------------------------- こうして語り合うのであれば、何を恥ずかしがるのです。 顔をお見せなさい」(※)と、おっしゃる ※この当時は女性は男性に顔を見せないのが一般的でした。 顔を見せることはそれだけ親しい間柄であることの証しです 「いみじく憎ければ 『さあらむ人は え思わじ』と のたまいしによりて」 ------------------------------------------------------------ 「私はとても憎らしい顔つきですから、『憎らしそうな人は、好きになれない』と、 おっしゃていたじゃありませんか」 「憎く もぞなる。さらば な見えそ」と おのずから見つべき折も -------------------------------------------------- 「やれやれ困ったことにあなたが憎く思えてきそうだ。 それなら、顔はお見せになるな」と自然に顔が見えそうなときも 顔をふたぎなどして まことに見たまわぬも ---------------------------------------------- 顔を伏せるなどしていると、ほんとうにご覧になさらないもの まごころに そら言したまわざりけり と思うに ----------------------------------------- 本心から、嘘はおっしゃらない方、と思ったものだった 第4話へ続く ここでの藤原行成と清少納言のやり取りは、小気味よいものがあります。 先人の遺言や古典からの引用をさりげなく言葉に織り込んで、相手もそれを わかった上で応えています ここでの行成の「顔を見せなさい」、清少納言の「いやです」というやり取りは、 この段最後のエピソードの伏線になっています |
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