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現代語訳でお届けする枕草子、第57段は「職の御曹司の 立蔀のもとにて」です。この段に登場する藤原行成は一条 天皇に仕える四納言の一人です。書の達人として知られ、 その書は後世まで影響を与えたとされています。 清少納言は一条天皇の妃の中宮・定子(ていし)に仕えて いました。そのため行成と親しい間柄だったようです。 この段はそんな二人の関係がエピソードを交えて描かれて います。行成は、この後も「逢坂の関」の段で再び登場します この段のころは、行成が25〜26歳、清少納言は32〜33 歳といわれています。とても長い段なので、数回に分けて 掲載することにします ◇ 職(しき)の御曹司(みぞうし)の 立蔀(たてじとみ)のもとにて ----------------------------------------------------- 中宮関係の事務を司る役所の部局・御曹司の、仕切り塀のあたりで 頭弁(とうのべん)の 人と物を いと久しく 言い立ちたまえれば --------------------------------------------------- 蔵人の長の弁官(※)が、女性と長い間、立ち話をされているので ※ 弁官は太政官に属する部局のひとつ。 中央と地方を結び行政機構の運営を担った。 この人物が物語の中心人物・藤原行成です さし出(い)でて 「それは誰ぞ」 と言えば ------------------------------------------------- その場へ出向いて、「そこにいるのはどなたですか」 と尋ねれば 「弁侍(さぶら)うなり」 と のたまう ------------------------------------ 「弁官がお伺いしているのです」 と、おっしゃる 「何かは さも語らいたまう ---------------------------------------- 「どうして、そんなに親しそうにお話なさるのですか 大弁見えば うち捨て たてまつりて いなむものを」 と言えば ------------------------------------------------ あなたの上司の大弁(※)の姿が見えれば、その女性は、 あなたを打ち捨てて、立ち去ってしまうのものを」 と言うと ※弁官の上位の職。行成の上司にあたる いみじく笑いて 「誰か かかる事をさえ 言い聞かせけむ ---------------------------------------------------------- たいそう笑われて、「誰がそのような事を、あなたに言い聞かせたのですか 『それさ なせそ』と 語らうなり」と のたまう ---------------------------------------------------------- 『立ち去るなど、しないで』と、この方と話をしていたところです」 と、おっしゃる いみじく見えて おかしき筋など立てたる事はなくて --------------------------------------------------------- 行成さまは、たいそう立派に見えて、風情のある面を見せつける事はなく ただありなるようなるを 皆人(みなひと)は さのみ知りたるに ------------------------------------------------------- ありのままでおられるのを、他の人はみんな、そのことを知っているが なお奥深き御心ざまを 見知りたれば ------------------------------ 私はなお深いお心を、知っているので 「おしなべたらず」 など 御前(おまえ)にも啓し --------------------------------------------------- 「世間一般のお方ではございません」 など、中宮さまにも申し上げ また さ知ろしめしたるを ------------------------------------ また、中宮さまもそのことをご存知でおられた 常に 「『女はおのれを喜ぶ者のために顔づくりす ------------------------------------------------- 行成さまはいつも、「『女は自分を愛する者のために化粧をする 士(し)はおのれを知る者のために死しぬ』(※)と 言いたる」 と -------------------------------------------------- 男は自分を理解する者のために死ぬ』と、言っている」 と ※史記の刺客列伝からの引用 言い合わせつつ 申したまう ---------------------------------------- 私との間柄を、私と中宮さまとの関係になぞらえて、 中宮さまに申し上げるのでした (第2話へ続く) 藤原行成が一人の女性と話しているところへ、清少納言が やって来ることから物語が始まります。 彼女は行成という人物をよく知っているので、「世間で言わ れる程度の人物ではありません」と中宮・定子に申し上げ ています。 行成は、史記からの一節を引用しながら、自分と清少納言 との間柄を、中宮と清少納言と関係になぞらえ、また相手も それが理解できるなど、当時の宮中における人たちの教養 の高さが垣間見えます。 この後も、行成と清少納言との間では、古典を引用した会話 が交わされます |
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